Art design by Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan

部族の農地を改革する科学者 アンネ・ウー

山から海へ  オーガニック パラダイス

Self Portrait, Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Ming Chien Liang

アンネ・ウーは台湾の新竹の海辺の村で生まれ、7人の兄弟と一緒に育ちました。家族を養うために、両親は家を爆竹を織る工場に変え、畑仕事の暇があれば爆竹を織っていました。でも海辺を散歩していると、彼女はその向こうにある世界や人々を見ることを夢見ていました。

アンネは幼い頃から勉強とスポーツが大好きで、優秀な生徒でした。けれど田舎の女の子は、小学校を卒業した後は工場で働くのが普通でした。彼女も卒業式の日に他の女の子たちと同じようにバスで工場に送られ、そこで暮らすことになりました。彼女は、ただ勉強がしたくて昼も夜は泣き通しました。それを知った彼女のお姉さんが両親に懇願し、彼女の願いは叶えられることになりました。

学校のハンドボール部に入部したアンネは、各地の大会に出場し、故郷を越えて世界を見ることができました。また、奨学金を得るために毎学期必死に勉強し、村で初めて入学試験に合格して地域の女子高校に通えることになりましたが、、アンネは昼間はコンデンサ工場で働いてお金を作り、夜に専門学校で勉強する選択をしました。高校卒業後は大学への進学を希望していましたが、それはできません。そのため、昼間は品質管理を専門とする製薬工場で働き、微生物学の基礎的な作業のスキルを身につけ、夜は台北工科大学で化学工学を学ぶことにしました。卒業後はバイオテクノロジーの研究者として働き、その優れた業績は高く評価されました。

1980年代、当時、台湾のバイオテクノロジーは、台湾のバイオテクノロジーの父」と呼ばれる李国鼎氏が他国のバイオテクノロジーを紹介したのがきっかけで始まったばかりでした。
1984年にDCB(バイオテクノロジー開発センター)が設立され、研究開発のために海外の研究者が集められました。アンネはバイオテクノロジーに精通した経歴を持っていたため、同センターの研究員となりました。どんな困難にも立ち向かっていく彼女の努力とその姿勢は、大きな尊敬を集めました。研究のために必要だった大学院での研究を進め、家族で初めて修士号を取得しました。幼い頃には夢にも思わなかったことです。

Mountain in Taiwan, Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Ming Chien Liang

転機–約束

2001年に発生したハリケーン「タオジー」は、死者111人、行方不明者103人、農林漁業に770億ドルの被害をもたらしました。このハリケーンで被害を受けたアミ部族の花蓮から2人の宣教師がDCBに助けを求めに来ました。当時、アンネは40歳で、がんの治療を終えたばかりでした。彼女の上司は彼女の健康状態を考慮して、「研究室の外の畑で実験的な仕事をすることで、研究のプレッシャーから解放され、療養中の彼女の手助けになるのではないか」と考え、部族をサポートする「コンパニオン」として彼女を担当させることにしました。

アンネの癌の経験は、健康的な有機食品、汚染のない環境を推進することの大切さを教えてくれました。そして彼女は有機農業に挑戦することを決意したのです。
有機農業の予算は承認されませんでしたが、彼女は諦めることができませんでした。彼女は2週間ごとに花蓮に行き、自費で共同体の費用を払って、部族に有機農業を教え始めました。

ようやく2003年末に、土壌と水質検査の予算が承認され、アンネはDCBの代表研究員として、正式に部落の有機農業導入を支援することができるようになりました。彼女の部族とのつながりは長い間続くことになりました。彼女が部族のために尽力してから20年が経ち、彼女は「部族の母」と呼ばれるようになりました。

かつての部族は、農具にナイフを使い、畑の害虫を最小限に抑えるために畑を焼き、焼いた植物を肥料にして土壌を改良したりしていました。動物の攪乱がなく、1ヘクタールあたりの収穫量を最大限にするようなことを考えなければ、この伝統的な方法で家族の自給自足の生活が可能な状態でした。
しかし現在では、公共交通機関や子供の通学費、家計費を賄うための収入が必要となり、一家の栄養を満たすだけの畑ではもはや十分ではありません。

二人の宣教師が助けを求めて来たのは、新しい農業方法によって部族が貧困から解放され、生活水準が向上することを願っていたからです。アンネは、化学肥料や農薬を放棄し、トウモロコシの茎、米の殻、牛の糞、牛乳…などの地元の材料を利用して、有機堆肥の分解を早めるために自然の微生物発酵を使用して液体肥料を作るよう部族を説得しました。

微生物の土壌に有害なものと有益なもの異なる株同志の拮抗は、植物の病気への抵抗力をつけるのに役立ちます。苦味茶のような植物はアルカロイドを含み、天然の殺虫剤として機能することができます。豊富なサポニンを持つサピンドゥスは、乳化剤や天然の界面活性剤として制御剤を調整する役割を果たします。

アンネは、植物の状況に合わせて、有機肥料をそれぞれ異なった量と比率で調節することを学び、部族の農地がより健康で丈夫になるように、土地管理の改善を指導しました。また、植物の特性を利用して、特定の地質条件で効率的に生育する方法、例えば、現在のイネ科の植物を、つる性植物の支えとして利用する方法を指導しました。このようにして、必要なものは何かを、実験しながら考え出し生み出していったのです。

このような有機農業は、人間による自然破壊を最小限に抑え、土壌や水を大切にします。健康的な環境で農業を行い、人々が安心して食べられる野菜や果物を作ることができます。まさに健康の核心的な姿といえます。また、自然素材で育った植物の葉や根は、様々な微量元素を吸収することができるため、ハウス栽培のものとは味や食感が大きく違ってきます。

アンネは、有機農法に転換した部族の一人一人が、この農業経営の知識を他の部族に伝えていく「もと」となり、世代を超えて受け継がれていくことを願っています。

「部族の仲間」として、良好なコミュニケーションを確立することが重要になります。そこでアンネは、各部族にコミュニケーション、調整、農作業の実行を担当する「現場のコンパニオン」を育成しています。さらに、「コンパニオン」は他の部族とのつながりを作り、他の部族に「有機的」な農法を広めていく役割も担っています。

Store at the Tribe Village by Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Anne Wu

収穫物を有機農産物市場に販売するために、アンネは部族の有機認証取得のための活動を支援しました。ある例では、タランポ部族の宣教師たちがオレンジ色のユリを有機栽培するのを手助けしました。残念ながら、彼女は土地の賃貸契約と単独所有の制限のため、台湾からの認証を申請することができませんでしたが、懸命になって部族事務局に連絡して、局長は海外に呼びかけて資金を調達してくれました。そして2009年、スイスのIMO(エコマーケット研究所)からオーガニック認証を取得することができました。台湾の部族(電気のない「ダーク部族」はもちろんのこと)の有機農産物が国際的に認められたのは初めてのことです。

2004年、アンネは「オーガニックライフショップ」を設立。2006年には、12部族の膨大な量の農産物を消費するために、姉と義兄(新竹市の文法学校の校長)に校内での有機食の普及をお願いしました。このアイデアは徐々に9つの学校で受け入れられ、教師と一緒に「有機食品の日」のイベントを開催し、飲食を教育の一部にしていきました。さらに彼女は、貧しい子供たちのために放課後に9つの「学びの場」を設け、有機農業のトレーニングも行いました。また、国立台湾博物館と“ラブリー台湾”が主催する食農教育プログラムにも参加し、台北市での「オーガニックフードデー」を推進しています。

2011年には、部族の健康製品をオンラインで販売し、部族の有機農業、文化を永続させるために、Taiwan Way (ttaiwanorigin.com.tw)を立ち上げました。また、お茶、ハーブ(在来種のアリアンサスの山椒灰など)、貝のショウガ、シソなどの塩、塩の木の塩、フルーツソルトを使ったクッキー、ハーブやドライフルーツで味付けしたケーキなども販売しています

Spices by Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: https://www.taiwanorigin.com.tw/

ビジネスの訓練を受けていないアンネでしたが、さまざまな苦難にも負けず、創造性を生かして懸命に取り組みました。例えば、彼女はハイビスカスの花の使用を、普通の漢方薬から健康的な砂糖漬けハイビスカスとハイビスカスドーナツに変えました。同様に、2017年の客家(Hakka)文化ショーでは、彼女は香りの良いハーブ、キノコ、ドライフルーツなどを取り入れ、42種類の味の発酵豆腐を発表しました。見た目がイマイチな、からし菜漬けは、彼女が描いた優雅な書と絵をラベルにアレンジし、商品にしました。

Croissants by Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Anne Wu

有機農業の知識を発信し、活用するために、アンネは台北と桃園に2つの教育農場を設立しました。これらの教育農場では、彼女は健康的な経営技術の全カリキュラムを一箇所で提供できると同時に、より熟練した部族の農民にも対応できるように準備をしています。

Saltwood by Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Anne Wu

コミュニティ管理

現在、部族の農地は高齢者によって維持されていて、若い世代は都市部で生計を立てるために家を出ていくのが普通になりました。部族ごとに独自の商品や多様な生態系を持ち、独自の供給網を作れば、若い世代が部族に戻ってくる可能性が高くなる。ーそれを実現するためには、コミュニティマネジメントに取り組まなければならないことに気付きました。

Dinner Feast, Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Ming Chien Liang

アンネは、部族の文化をそのまま残し、商業化されていない形で観光地として発展させようとしています。食べ物は伝統的な薪ストーブで調理します。地元で養殖された土地や海の珍味は、素敵な色と香りで作られ、繊細に編まれたヤシの木やパンの実の木の葉の上に並べてあります。それらは純粋で、有機的で、新鮮で、健康的なものばかりです。このような食事が、海沿いの素晴らしい観光(サンゴ礁など)や、サーフィン、ダイビング、カヌーなどのアクティビティと合わせて、刺激的な体験を提供することができれば、より豊かな旅行体験の基盤が作れるでしょう。

Beach of the East Coast in Taiwan, Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Ming Chien Liang

今年の初めに彼女が行った部族間・文化間の充実した活動の一つに、アミ族の竹いかだ作りの技術と伝統的なエスキモーカヌーの技術を共有するというものがあります。参加者全員が山に登って必要な材料を集め、ミニチュアの模型を作り、本物のカヌーを正確かつ丁寧に作るというものでした。

Canoes designed by Aboriginals in East Taiwan
Courtesy: Anne Wu

アンネはまた、タロマック族の女性たちが季節の花で花輪を編んで飾るのが好きだということに気づきました。

伝統的なハーブや薬を使って、ハーブヒーリングのセッションを展開してみてはどうだろうかー。林業に力を入れ、エコツアーなどで心と体を使った体験をしてみてはどうだろうかー。
部族文化を先祖代々のルーツにまで遡ることができれば、収穫祭や儀式は産業の連鎖の一部となり、部族文化の核心をより良く保存することができます。

Healing Bed in Forest by Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Anne Wu

部族文化の継承

例えば、ターマック族が使用していた粟(アワ)は、元々は集約農法として植えられたものではなく、原始的な狩猟採集文化の中で自給自足のために必要なものでした。しかし、粟は部族の生活と密接に結びついており、誕生から死に至るまでの生活のあらゆる場面で神聖な意味を持っています。

口伝文化では占いが重要です。粟はターマックの長老たちの夢占いによって特定の場所に植えられます。また、多くの部族の長老は、鳥の鳴き声を聞くことによって占います。祖先や木と同じように、鳥にも魂が宿っています。

本来、各部族が独自の神話や信仰を持っていますが、現在ではカトリックやキリスト教の信仰を持っている部族がほとんどです。しかし、伝統的な祭りや儀式は今でも行われています。

アンネは芸術を愛する科学者です。特に水彩画、中国画、書道を得意としています。また、彼女の心の奥底にはとてもロマンチックな場所があります。何十年にもわたって部族のコンパニオンをしてきた彼女は、お祭りにとても感動してきました。長老たちが部族の歴史を語るのを聞いて、彼女が体験した心の底からの衝撃は言葉では言い表せないほどのものです。それがあまりにも印象が強かったため、彼女は粟文化のドキュメンタリーを制作することを決意しました。

Beach cleanup by Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Anne Wu

有機農業から海洋保護まで

台湾の北東海岸は熱帯魚の最北端の生息地です。温暖な気候とサンゴ礁に恵まれたこの亜熱帯海域は、海藻、魚、エビ、貝類の楽園となっています。そのため、この地域は生態系の保全活動家の注目を集めています。アンネの願いは、現在の沖合の海の状態を永久に保存するための方法を早く開発することです。

アンさんの友人であるキャンディさんはダイビングコーチをしており、海をこよなく愛しています。台湾の東海岸でダイビングをしていた時に、汚染によるサンゴの白化に気づきました。二人の女性は、海沿いの部族に有機農法を採用するよう教育し、汚染を減らし、沖合の生態系を保護するために、海と浜辺をきれいにするイベントを定期的に開催するようになりました。
「すでに汚染された海の流れを遠くから変えることはできませんし、地球全体の大気汚染の悪影響を変えることもできません。私たちにできることは、地元で行動することだけです。」

Art design by Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Anne Wu

また、アンネは、国立東華大学の李光忠准教授と一緒に、東海岸の部族をつなぎ、山と海に挟まれた段丘の川や農地の生態系を改善し、動物や魚たちが健康的な楽園で幸せに暮らせるようにする「里山構想」にも参加しました。

Rice by Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Anne Wu

私が昨年12月に、有機農業を取り入れた復興族を訪問できたのはラッキーでした。太平洋を見下ろすテラスで育った米、木青、油菊、人参、ハーブ……汚染されていない理想的な農地で、海霧と香ばしい海の空気の中で踊っていました。まるで夢の中にいるか、迷い込んだ楽園にいるかのような気分になりました。

また、海のすぐそばに田んぼが広がっているのにも驚きました。 海に隣接した棚田では、設平産の有機栽培の「海米」の農業が復活していました。 山からの清流水と海からの涼やかな風を受けて育った「海米」。香り高くて格別な味がするのも頷けます。

Rice Field by Anne Wu, Biologist, Entrepreneur, Taiwan
Courtesy: Anne Wu

視野が広がるヒロイン

小柄で傷つきやすい外見とは裏腹に、近年のアンネの生活は、企画、資金申請、実施、新製品の設計、問題解決のためのタイトなスケジュールに追われていました。

有機農業、エコロジー産業、コミュニティ管理、部族文化の保護、30以上の部族のための農園や森林の再生、ハリケーンで破壊されたパッションフルーツ農園の復興支援などの緊急災害支援にもよく乗り込んでいました。

私にとってもっと意味のあることは、アンネが自分の信念に沿って行動していることです。私たちは皆、「地球を守れ」と叫んでいますが、現代の(そしてしばしば破壊的な)生活によって可能になった便利さを妥協する気はありません。環境危機に対処するために何かをしなければならないことはわかっていても、その方法がわからないし、私たち個人が何かを変えることができるとは思っていません。

アンネの科学的な知識と技術は、バイオテクノロジー産業で高給取りの仕事を簡単に得ることができましたが、彼女は富を捨て、代わりに、貧しくて虐げられたり無視されていた部族を助ける道を選択しました。彼女は少しずつ、汚染のない有機的なパラダイスを確立していきましたが、それは今、地球が切実に必要としているものです。私たちは、彼女が、より健康的な地球のために、より良い生活のために、そしてより良い未来のために、彼女が静かにできることを全て行っていることを祝福されていると感じます。
それでも彼女は「私の能力には限界がある。だから黙々と仕事をするしかない!」と言っています。
しかし、何よりも重要なのは、彼女が私たちのお手本になってくれていることではないでしょうか。

原始的なジャングルに身を投じ、言葉も文化も全く知らない部族と接触する姿は想像を絶するものがあります。「怖くないの?」 と聞いてみました。
「そうですね…私はいつも経験が足りないことを恐れています。だから、私はあえて多くの約束をしないようにしています。事前にしっかりと計画を立てて、それを実行するだけです。台湾の部族の人たちは優しい人たちです(中には比較的戦争好きな人もいますが…)。
20年前に部族の宣教師2人が現れなければ、このような素晴らしい経験はできなかったでしょう」。

アンネは自分のエネルギーと技術のすべてを有機農業と生態系の保全に捧げていますが、バイオテクノロジーの理論を現実世界の問題解決に応用し、学び、改善し、視野を広げ、部族の農民が伝統的な農業に自信を取り戻す手助けをすることができることに、謙虚にやりがいを感じています。

約束から始まったこの小柄な女性が、貧しい農村出身で、様々な困難に遭遇し、乗り越えてきたことが、今では見返りを考えずに、思いやりと努力と忍耐でここまで貢献していることは想像に難くありません。彼女がいつも障害を希望に変えます。友人からタイムリーなサポートをよく受けることもよくあります。彼女が有機的な楽園の彼女の夢を実現することができれば、彼女は地球上のより多くの場所を、健康的で汚染のない楽園に変えることができます。 私たちはアンネ・ウーのようなヒロインに心から感謝したいと思います。

– Ming-Chien Liang 10/2010/20 (和訳;右松明美)