Frozen Bubbles by Ryota “Kaji” Kajita, Outdoor Photographer, Japan, Alaska, USA

アラスカの氷の世界を撮る写真家 梶田亮太

Ice Formations -氷が織りなす不思議な形… 真っ白な雪と氷が暗い水の上に大きく浮かび上がり、アラスカの原野の本来の美しさを見せてくれます。

荒涼とした環境の中で、年月をかけて自然の力の証としてこのような形が形成されて見る人にインスピレーションを与えてくれます。梶田亮太氏(ニックネーム:かじさん)は、10年前にツンドラに出かけた際、偶然にこの美しい氷の造形物に出会い、すぐにその魅力の虜(とりこ)になりました。それ以来、かじさんはこの素晴らしい “Ice Formations “シリーズの撮影を開始し、写真家としての重要なシリーズの一つとして、毎年このIce Formationsを撮り続けています。

Ice Formation は、人生で自然の驚異を発見し明らかにするというミッションにとどまらず、彼自身の成長と自己啓発の道に繋がっています。10年の歳月を経た今、かじさんはこれらの氷の造形を “禅の体現 “と捉えています。

Frozen Bubbles by Ryota “Kaji” Kajita, Outdoor Photographer, Japan, Alaska, USA
Courtesy: Ryota “Kaji” Kajita

かじさんは毎年、初雪の前にアラスカ内陸部の沼地や湖、川などを探索します。雪が降るとその模様が跡形もなく消えてしまうため、底冷えの寒さに耐え、凍った不安定な氷の上を渡り歩きながら、幾何学的な造形の神秘を追求しているのです。

彼は時間を見失うことのないよう、自然との調和を保ちながら、今この瞬間を全力で生きることを心掛けています。その人生の旅の中で、アウトドア サバイバルと写真の技術を幅広く身につけ、自然への理解と感謝を、目を通して、またレンズを通して深めてきました

Frozen Bubbles by Ryota “Kaji” Kajita, Outdoor Photographer, Japan, Alaska, USA
Courtesy: Ryota “Kaji” Kajita

かじさんの写真は、彼自身だけでなく彼の写真を見る人に、世界の新しい視点をもたらしてきました。”Ice Formation “シリーズは、第7回東京国際写真コンクールで優勝し、ナショナルジオグラフィック誌にも掲載され、世界中の数え切れないほどの人々の目に触れてきました。かじさんとお話をする機会に恵まれたことを幸運に思います。

Frozen Bubbles from Ice Formation Photography by Mr. Ryota Kajita
Courtesy: Ryota “Kaji” Kajita, Photographer, Alaska, USA

Q: かじさんは、大変意味のある素晴らしい写真を撮る鋭い目をお持ちですね。
写真の経歴や写真のトレーニング技術について教えてください。

A: アラスカ大学フェアバンクス校の大学生の時に、ジャーナリズムの専攻科目の一つとして写真の基礎のクラスを受けました。ケイト・ウールさんが先生で、写真芸術の表現がいかに自由で豊かなものであるかを教えてくれました。私はこの分野に惹かれ始め、シャッターボタンを押したり、フィルムを現像したり、暗室でプリントを作ったりするのが楽しくなりました(そう、私がアメリカの大学生だった2005年頃、写真の基礎クラスでは “film “を使っていました)。彼女の助言によって、私は自分に自信を持ち、自分のオリジナリティを信じることができるようになりました。そうして私は、卒業後、写真芸術学の修士課程をとり、プロの写真家になることを決意しました。

Frozen Bubbles by Ryota “Kaji” Kajita, Outdoor Photographer, Japan, Alaska, USA
Courtesy: Ryota “Kaji” Kajita

Q:アラスカの風景、特にアラスカの内陸部に惹かれる理由を教えてください。

A:アラスカに住むことが若い頃の夢でした。日本の偉大な写真家、星野道夫さんの写真や文章に大きな影響を受けました。星野さんはアラスカの野生動物の写真で知られていて、アラスカでの体験を綴った本も出版されています。文面には、アラスカの野生動物との出会いや、アラスカの原住民をはじめとする人々との出会いの喜びが詰まっています。その写真や著書にとても感動し、アラスカでの生活を夢見ていました。しかし、日本での仕事もあり、アラスカでの生活は遠い夢でした。

そんな私の人生は、父の突然の死がきっかけで変わりました。当時私は25歳くらいでした。人の命は短く、突然に終わることもあるということを実感しました。父の死をきっかけに、自分の人生を精一杯生きなければならないと思いました。

私は、星野さんが初めて訪れたアラスカの、人里離れた村を旅することにしました。この訪問をきっかけに、彼が住んでいたフェアバンクスへの移住を真剣に考えるようになりました。彼の足跡をたどり、私はアラスカ大学フェアバンクス校の学生になりました。

Frozen Bubbles by Ryota “Kaji” Kajita, Outdoor Photographer, Japan, Alaska, USA
Courtesy: Ryota “Kaji” Kajita

Q:「Ice Formations (アイス・フォーメーション)」シリーズは世界的にも評価されていますね。
どのようにしてこのアイデアを思いついたのか教えてください。また、このような写真を撮るにあたって、どのような困難を乗り越えたのでしょうか?

A:すべての始まりは、当時のガールフレンドだった妻に、寒い日に外に出ようと誘われたことでした。ツンドラの中にある小さな池の近くを歩いていたら、そこに初めて氷の形を見つけました。その模様があまりにも神秘的で不思議だったので、写真を撮るのは写真家として当然のことでした。その後、私は湖や池を探索して、さらに多くのパターンを探し、収集するようになりました。

Ice Formationsはスプルース(マツ科の針葉樹)の森やツンドラの中にある湖や池に見ることができます。年々変化しますが、私は氷点下のなか、数日連続で待ちます。しかし理想的な状況待ち望んでいても、雪が降ってしまい、繊細なIce Formationsが雪に覆われてしまうことがよくあります。そこで私は、水が完全に凍る前に気泡を探し始め、その上を歩けるかどうか氷の厚さを確認します。気泡が出ている小さな池は、低い場所にあることが多いので、水が凍り始めるのが他の場所よりも早いのです。そのため、早めに探し始めるようにしないといけません。

私の見解としては、Ice Formationsを撮影するのに大きな障害はありません。必要なのは根気です。

Frozen Bubbles by Ryota “Kaji” Kajita, Outdoor Photographer, Japan, Alaska, USA
Courtesy: Ryota “Kaji” Kajita

Q:旅行や遠出、クロスカントリースキーが好きだとおっしゃっていましたが、あなたの冒険心はどこから来ているのでしょうか?

A: 日本人であることよりも、私の気質というか、心の奥底にある魂から来ているのではないでしょうか。15歳の時に日本で一番大きくて一番北にある北海道に電車で行きました。19歳か20歳の時に半年間日本中をバイクで走りました。21歳の時にはシンガポールからタイのバンコクまで3ヶ月間自転車で行きました。生まれた時から「Somewhere but not here」の精神が私の心の中に宿っているようで、その理由にはっきりとした答えはありません。 

Frozen Bubbles by Ryota “Kaji” Kajita, Outdoor Photographer, Japan, Alaska, USA
Courtesy: Ryota “Kaji” Kajita

Q: あなたの写真の中には「禅」を感じさせるような、シンプルでありながら力強い美しさを持ったものがあります。日本の哲学があなたの写真に影響を与えているかどうか教えてください。

A: 私の写真から「禅」のようなものを感じていただけたのなら、それはとても嬉しいことです。「禅」の正確な定義は難しいですし、おそらく日本とアメリカでは違うと思いますが、私の写真に写る「禅」は、この世の欲望を捨てて、自然体でいること、自分自身でいること、つまり 「禅」の側面の一つを捉えていると思います。美しい氷の模様は、人間や他の生物が鑑賞するためのものではないということが、とても興味深いと思います。
それは自然の中で起こります。ちょうど冬の初めに静かに表われ、雪が降った後に静かに消えます。自然そのものなのです。Ice Formationsはある意味で「禅」の体現であり、私はその対極で、写真を撮りたいという人間のエゴを持った存在なのです。日常の美しさや不思議さは、繊細で儚く、小さくて気づかないことが多いものですが、写真を通して、自然はその微妙な美しさを私に見せてくれます。Ice Formationsシリーズでは、これらの儚くも小さな作品を誰かと共有したいと思っています。

Frozen Bubbles by Ryota “Kaji” Kajita, Outdoor Photographer, Japan, Alaska, USA
Courtesy: Ryota “Kaji” Kajita

Q:悪天候の中での撮影では、どのような機材を持ち歩いていますか?

A: 中判のフィルムカメラ、フジのGF670とコダックのT-MAX100や400を使いました。GF670は1kgと中判カメラとしてはとても軽いので気に入っています。カメラを持って、凍った沼や湖を歩き回っています。三脚を使わないのは、上から撮ろうとすると氷の模様に影ができてしまうし、セッティングにも時間がかかるからです。アラスカは日照時間が短く、晩秋になると光の状態がガラッと変わるので、素早く撮影する必要があります。私は常に予備のバッテリーを持ち歩き、上着の下に入れて保温するようにしています。使い捨ての保温パッドで保温し、カメラの中が冷たくなったら電池を交換することも多いです。指がしびれてしまうこともありますが、寒さの中でのフィルム交換はそれほど気にはなりません。手袋をしたままフィルム交換ができれば私には問題ではありません。

Frozen Bubbles by Ryota “Kaji” Kajita, Outdoor Photographer, Japan, Alaska, USA
Courtesy: Ryota “Kaji” Kajita

Q:今後のイベントや企画を教えてください。

A: ナショナル・ジオ・グラフィック誌の2020年3月号に掲載されました。その中で私の写真を見る機会があれば嬉しいです。また、購読者にはデジタル版も提供しています。
https://www.nationalgeographic.com/magazine/2020/03/what-these-art-photos-say-about-climate-change/

第7回東京国際写真コンクールでは、このシリーズが受賞作品に選ばれました。台湾の台北で開催された “Wonder Foto Day”、アメリカのニューヨークで開催された ” The UPI Gallery “、アイルランドのダブリンで開催された ″Photo Ireland Festival″、東京で開催された “72 Gallery “などの巡回展を開催しています。コンテストは、私の作品を観客に見せる素晴らしい機会を与えてくれます。Our Narrativesの読者の皆さんがフェスティバルや会場でプリントされた写真をご覧になる機会があることを願っています。
 https://tokyophotocompetition.com/7-winners/

Frozen Bubbles by Ryota “Kaji” Kajita, Outdoor Photographer, Japan, Alaska, USA
Courtesy: Ryota “Kaji” Kajita

かじさんの写真は、自然と人を結びつけ、自然の本質を理解させてくれる気がします。そんな彼の作品を見ていると、次のような詩が浮かんできます。

″To see a World in a Grain of Sand
And a Heaven in a Wild Flower,
Hold Infinity in the palm of your hand
And Eternity in an hour…″ – by William Blake

梶田亮太さんが優れた写真家になるまでの道のりを読者の皆さんと共有してくださったことに感謝します。

梶田さんのWebsite and Instagram

彼の写真プリントは 次のショッピングサイトから購入できます。
 
art.planetfinds.com.