梅田剛嗣さんこと、“梅さん”のお店「わがみや うめだ」は1893年に曽祖父の梅田修三郎さんが表具店として開業。現在、梅さんは、和紙専門店4代目としてお店を守りながら、和紙工芸家として活動していらっしゃいます。彼の人柄と和のセンス、そして長年培ったワザから、温かな風合いの作品が生まれています。
梅さんの食器は、土台になる木を削ったものや紙粘土に和紙を貼り、柿渋、藍、墨の自然染料を使い、工芸漆が塗られるその工程は、全て手作業です。墨から生まれる緑・紫・黒の不思議な色合いは全て梅さんが生み出したもの…。
この他にも、メタリックな風合いを表現する技法を生み出すなど、和紙の魅力を新しい形で発信されています。彼のお店には、染め和紙そのもの、染め和紙を使った作品、タペストリー、箱、盆などが売られています。
伝統を守りつつ、新しい技法を生み出している梅さんにインタビューしました。[
梅田 剛嗣
和紙工芸家
和紙のタペストリー
藍染
Q:今のお仕事で一番楽しいと思う時ってどんな時ですか?
梅さん: 和紙が好きで柿渋など自然染料が好き。作ること(手仕事)が好き。和紙を染めるという作業は奥深く、自分の力を超えた美しいものができるーというのも魅力です。染める作業が一番好きかな。
Q:仕事の難しいと思うところは?
梅さん: 世の中のニーズに合ったものを見極めること。 いくら自分がいいと思っても、客観的に見ていろんな人に求められるものでないと駄目ですものね。
また、染色という偶然に生まれる美を 奇跡の一枚に終わらせずに、安定的に同じような美しいものが作り出せるようにする。―その実験と失敗の繰り返しです。 失敗、つまり思い通りにいかないことが多いのでそれにへこたれないタフな精神が必要ですね。
Q:水で洗える食器を開発されていますが、どうやって水にも強い紙ができるのですか?
梅さん: 防水用の工芸漆を使うことで可能になりました。思うような材料を入手するのに20年かかりました。
洗える和紙の食器
Q:小さい頃の想い出で、今の梅田さんに繋がる出来事を話してくださいますか?
梅さん:曾祖父が表具師(=巻物、掛軸、屏風、襖などを仕立てる人)でした。また私は表具材料を販売する家で育ったので身近に常に紙はありました。
余談ですが、江戸時代1785年、今私の店がある場所にちょうど紙屋がありました。そこに奉公していた幸吉さん(通称:鳥人幸吉)は、鳥が空を飛ぶ仕組みを研究し、表具師の技術を応用して和紙と竹で作った翼で近くの京橋から空を飛んだとされる人です。ドイツのオットー・リリエンタールがグライダーで空を飛んだとされる100年も前のことです。その幸吉さんが同じ場所に住んでいたというのも、何かご縁を感じます。
Q:紙工芸家になるまでのことを教えてください。また、屏風作家としての修行をされてますが、それは今どのように役に立ってますか?
梅さん: 自然が好きで農業やりたくて大学は農学部に進学しましたが、農業の厳しさを実感して断念。ライター系の仕事もしたかったのですが 新聞記者職など全て落ちて、就職がなくて家業の跡を継ぎました。
家業を継いで、表具材料を売る商売をするにあたり、表具という仕事を覚えるため、 曽祖父の弟子だった 高原表具(当時80歳過ぎ・30年前)に8年間通い、高原さんが得意だった屏風つくりを学びました。
自分独自の屏風を作るために和紙を染めるようになり、その染めた和紙が好評で、 染め和紙そのものを販売したり、染め和紙を使った作品、タペストリーや箱、トレーなどを作り始めました。
屏風つくりを通じて和紙工芸の面白さ、奥深さ、そして何より、和紙を貼る・加工する、という技術が身についたことが一生の宝物です。いろんなことに応用できます。
Q:仕事以外に活動していることはありますか?
梅さん: 2020年春まで8年間ラジオの仕事を月一回ですが 地元のFM岡山さんでレギュラーゲストとして生放送9時半~10時におしゃべりしていました。(ルイーズさんも この番組に出てくださいました。)
いろんな工芸や絵画の作家さんを紹介したりして 人と人をつなぐような役割をさせていただきました。
今年は 岡山の新見美術館で秋に ワークショップ(和紙を使ったお皿作り体験)を依頼されています。その時に和紙のお話などさせていただく予定です。
Q:今後どんなものに挑戦していきたいですか?
梅さん: 文章力をブラッシュアップして、和紙の良さ、和紙工藝の面白さなどをきちんと伝わる言葉で次世代につないでいきたいです。
また、人と人をつなぐということが好きなので 若手の作家さんをメディアにつないだり、世の中に紹介できたらいいなと思っています。和紙工藝家としてはギャラリー関係の人や お客さまからの求められるもの(要望)にできるだけ答えながら お役に立てればいいなと思っています。
Q:和紙工芸家として一番大切にしていることは何ですか?
梅さん: 和紙は長く使えるものです。 日本最古の和紙は 1000年前の東大寺の宝物殿にあります。
なので 最近に作られた和紙でも いいものは普通に100年とか持ちます。
和紙や自然素材(木など)で作ったものは、使えば使うほど味が出るものなので、 少し壊れたり痛んだりしたら直して使えます。
とにかく末永く使えるもの、愛されるものを作っていきたいです。
手仕事の作品は 創った時が完成ではなく、お客様の手に渡り、お客様が使って味わいを付けていく そういうお客様の手の中で育っていくものだと思っています。
Q:若い世代の人たちに梅田さんから伝えたいことはありますか?
梅さん: 若い人には手仕事の良さを伝えたいです。 手仕事は 身につけるもの、体で覚える仕事。
失敗を恐れず、失敗にめげず、こつこつと覚えていくことが大切。
時間はかかるけど 身についた技術は 自分を決して裏切らない。いろんな場面で役に立ちます。身を助けます。技術が身につけばつくほど、その仕事に愛着がわき、楽しくなります。 そういう良さを和紙を通じて伝えていきたいです。さ