White memory by By Tachiki Yoshie, Painter, Artist, Japan

立木美江(Tachiki Yoshie)氏の精緻なフローラアート

立木美江氏の精緻なフローラアート

立木美江さんは、時の流れの中で、植物の儚い美しさを表現することに専念している、日本の才能あるアーティストです。花や木の枝は、季節の移り変わりによってさまざまなポーズをとり、光の強弱によって濃淡のある色彩が変化します。
 
立木さんはその微妙な変化を丹念に絵に取り込み、昼と夜、四季と一体となった美しく多彩な世界を紡ぎ、無常の美を表現しています。 
 
侘び寂びの思想や日本の伝統的な美意識に根ざしながらも、色彩のリズム感や繊細な表現が特徴的です。花々が咲き乱れ、葉が茂り、植物が朽ち果てるまで、立木さんの作品は季節の移り変わりを生き生きと表現しています。
 
立木さんは、何世紀にもわたって職人が使用してきた天然染料と紙を使用し、その精緻な絵画の中に魅惑的な古代の雰囲気を作り出しています。立木氏の自然に対する印象と鋭い観察眼が織り成す世界は、見るものを魅了し、忘れがたいものとなっています。
 
次のインタビューでは、絵を描くときの心境を語っていただきました。
By Tachiki Yoshie, Painter, Artist, Japan
Courtesy: 立木美江
Self portrait by Tachiki Yoshie, Painter, Artist, Japan
Self portrait, Courtesy: Tachiki Yoshie

Q1. あなたのアートスタイルを確立するまでの経緯をお聞かせください。

A: 「植物達の魅力的な姿を描き残したい」という強い想いから私の画業は始まっています。
西洋の写実を目的とした「デッサン」と違い、「日本画」にはモチーフを生きているように描く、現代の漫画にも通じる「写生」の画法によって自分が感じた植物の真実の姿を写し描きます。

屋外でスケッチをしていると天候の悪い日などは「写真を写して描いてみたら」と助言を頂くこともありますが、写真から描かれた絵の視点は画一的となり、モチーフに動きが無くなってしまいます。
実物に向き合って写生することのメリットは、異なる時間軸のモチーフを一枚の絵にすることが出来、葉っぱ1枚とっても角度が変わると全く違った表情となるため個々の最もベストの造形を写すことが出来る点にあります。

大作になると一つのモチーフに1年以上の長い時間をかけて向き合うこともあり、日々刻々と移り変わる姿を描き留めますと、彼らの生命の営みをとても身近に感じる事ができ、向き合う時間が対話の時間でもあり、私の制作においてとても大切にしている作業となりました。

写生は一本の線だけで描きますが、この一本の線にどれだけの想いを込められるかがとても大切だと思います。

By Tachiki Yoshie, Painter, Artist, Japan
Courtesy: 立木美江

Q2. 作品制作に使用している材料や方法などに関して教えてください。

A: モチーフである植物を描くのに、最初はみずみずしく描くことのできる水彩画で描いていましたが、
紫外線などの影響を強く受ける事で作品の長期保存が難しいという課題を感じていたところ、
日本の古典美術に古代から使われてきた「日本画材」に出会ったことで岩絵の具、和紙、墨などの
自然から作られた、強度にも優れた画材に魅力され、現在はこの伝統画材を用いて作品を制作しています。

日本画で使用される厚手の和紙はとても丈夫な繊維で作られており、日本画の下地は何層にも色を塗り重ねますが破れたりしません。

岩絵の具は鉱石を砕いて作られた小さな石の粒子ですので、絵具として使用するには技術を要しますが、
描かれた作品は画面の鉱石が光を反射しますので、朝昼晩と周辺の光量によって違った表情を見せてくれるのがとても魅力的です。
画材の用法も口伝で伝わってきたものもあり、正式な書物など記録は少なく、現代でも作家ごとに調合など異なる「秘技」も研究余地があり興味深いです。

By Tachiki Yoshie, Painter, Artist, Japan
Courtesy: 立木美江

Q3. あなたの作品には「わびさび」というテーマがあります。このテーマがどのように作品に反映されているのか教えてください。

A: 純粋に植物が好きで、長い時間ただただ観察している時間が幼少期からありました。
植物の世界は、花が咲き、散って葉になり、枯れて落葉し、また春には芽吹くという生命のサイクルがとても早く
そのような輪廻転生する姿を見て「はかなくも美しい生命」に「侘び寂び」を見出したことで「生命賛歌」という
現在の作品の根底にあるテーマとなったように思います。

一見するとただ植物画と評されてしまうこともありますが、植物をモチーフに肖像や群像を描くことで、
そこに潜む感情がを自然素材の伝統画材で描くことで、彼らの姿を作品としてラスコーの壁画のように
長く留めたいという想いで制作をしています。

By Tachiki Yoshie, Painter, Artist, Japan
Courtesy: 立木美江

Q4. あなたの美的感覚は、自然のサイクルと調和しており、それは色彩の選択にも表れています。色彩の選択について教えてください。

A: 色彩はモチーフそのものの色彩に加え、どのような環境、時間、光彩を纏うと魅力を引き出せるのかという事を意識しながら、背景には一見何も描いていませんが実は、何色もの色を積み重ねじっくりと時間をかけています。
複雑に絡み合った色彩を織り交ぜる事で、普段目に映る植物とは違った別の印象を知ってもらえればと努めています。

絵画の色彩基準には鮮やかさを計る彩度や明るさを計る明暗というものが知られていますが、
私は日本画で描く場合、輝度もまた、色彩の基準として存在するように考えています。
画面上は茶色や灰色に見えているものも、実際の作品を見て頂くと、岩絵具の鉱石、天然石や極小の色ガラスの石粒が一つ一つ周囲の光を反射して、絵画の世界と現実の空間で一つの色彩を作ります。
岩絵具の他に、金箔や銀箔など、朝昼夜で違う色彩に見えます。空が夕焼けに染まれば、絵画の世界もまた夕焼け色になります。夜には月が浮かぶような絵を描くこともできます。
日本画は時間帯によって光の反射で絵が全く違うように見えますので、一枚の絵を描く時には、朝昼夜違う環境で描いて常に調和がとれるように心がけています。

色彩感覚については、
東洋に「陰陽」という考えがありますが、もしも私が絵に例えるならば、
陽の絵は明るい色彩の元気をもらえるようなインパクトのある、太陽の光のような作品、
陰の絵は陰りがある色彩の疲れを癒すような月の光のような作品といったところでしょうか。 

By Tachiki Yoshie Painter, Artist, Japan
Courtesy: 立木美江

Q5. インスピレーションの源は何ですか?

A: 自然に自生している植物との出会いです。
モチーフとなる植物を探しに日々近隣を散策しておりますと稀に呼び止められるかのような植物との出会いがあります。
これは「描かねばならない」という出会いが幾度もあり、写し終わって程なくするとその植物は伐採されたり、朽ち果ててしまったりという事を何度も経験しますと、植物との出会いも「一期一会」大切にさせて頂いております。

Q6. 日本で活躍する若手アーティストとして、伝統を受け継ぎながら、どのように新しいアプローチで作品に取り組んでいますか?

A: 「日本画」の歴史はデザイン的な役割を担った工芸美術としての側面が強く、西洋の絵画のように作品が主役ではなく、作品の前に人が立って完成するような構造で描かれているものが多くあります。
これは日本画の歴史が、生活空間の中で屏風や襖絵、掛け軸、天井画など、一つの空間に四方に描かれ常に生活と一体であり、インテリアの側面があったからです。
例えば武家屋敷は天井が低く日中でも暗いのですが、余白の大きな掛け軸や金屏風などが明り取りにもなり、明るすぎない喫茶店のような心地のよい空間を作っています。

この古典の考え方を応用して現代の住空間を彩る方法を考えています。 
私の作品は植物だけで構成された作品ですので人との相性が良く、主役にも脇役にもなれる作品です。

自然のモチーフを自然の画材で描くという事に現代においては大変意味があると感じています。
あえて手間暇のかかる希少な自然の画材と伝統の工程を経て生まれる作品を通じて、
効率・能率を越えた価値の復権を掲示できればと期待しています。

Q7. あなたの作品に影響を与えた成長期の生活体験は何ですか?

A: 幼少期の頃、草叢の中に植物の間をすり抜けて空から差し込む陽光に照らされた草花の姿に心奪われ、
心から「美しい!」と感動し涙した古い記憶があります。

思い返すとその時の感動が今も残っており、今でも植物ばかりを描き続けています。

思春期はいじめられたり、人と馴染めなかったり、毎晩一人ぼっちで泣いていて楽しいばかりの青春ではありませんでした。人付き合いがとても苦手になっていました。

そんなとき、時折見かける夜の誰もいない公園で咲いているつつじの花や、道路の隙間で顔をのぞかせている野草など、
学校に通う私と全く違うサイクルで生きている植物を見ていると、
人と違って良いのだ、マイペースに生きれば良いのだなという気持ちになり、心が随分と楽になりました。

描くことで花と対話できることが幸せだと感じられるようになり、孤独を楽しめるようになりました。
辛い時にすぐ傍にある植物に救われたという思いがあります。

そして、絵をみてもらえることで、人とつながりを持ち、心の中に花が咲いているような気持ちになりました。 

By Tachiki Yoshie, Painter, Artist, Japan
Courtesy: 立木美江
White memory by By Tachiki Yoshie, Painter, Artist, Japan
White memory, Courtesy: Tachiki Yoshie

Q8. 今後のプロジェクトや展覧会について、読者と共有したいことはありますか?

A: 私の作品に欠かせない日本画の伝統画材が近年、職人の高齢化や後継者不在などの問題に直面し、徐々に失われつつあり、日本国内においてもその稀有な希少性への理解が乏しい状況に大変な危機感を持っています。

世界的にみて、ラスコーの壁画など、古代の作品は自然素材で描かれていましたが、
その伝統が太古から受け継がれ現代に継承されている事は人類の絵画史においても奇跡のようなことです。

今や希少となってしまった国産の日本画材を知ってもらうための広報活動と生産者支援に向けた取り組みを
大学の研究者や地元の日本画家と共に行います。

海外の方にも広く認知頂き、日本画材に触れてもらう機会を増やせればと思っておりますので
展覧会とあわせてこちらにも注力してまいりますので、このプロジェクトにも注目いただけますと幸いです。

古く良いものは、一度失われてしまうともう二度と同じものを復元することはできません。
伝統和紙は強固で、シルクロードの時代のものが保存されています。
岩絵具もまた耐久性に優れ、1000年以上、同じ色彩で輝き続けることができます。

私は1000年後にも残るような自身の作品やプロジェクトをしていきたいです。

絵は日本では漢字で「糸」に「会う」と書きます。
私が描いただけのもの、考えただけのことをモチーフ、そして様々な人との「出会い」が一枚の絵をかたち作ってくれます。
あなたとの出会いもまた、私の作品の一部です。

By Tachiki Yoshie, Painter, Artist, Japan
Courtesy: 立木美江

立木美江さんに思いを語っていただけて大変嬉しく思います。今後も素晴らしい作品に出会えることを祈っています。立木さんの連絡先はこちらです。

立木美江さんの連絡先: info@tachiki-yoshie.com
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